Life of pi

【追記】ライフ・オブ・パイ、壮大なファンタジーの影に隠れた事実

by • February 26, 2013 • Gossip, Latest NewsComments (0)11177

Life Of Pi, Behind The Scene Of Jaws Chopping The Speech.

映画「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日(Life of Pi)」、見事アカデミー賞・監督賞を受賞しました。アン・リー監督がスピーチで手を合わせ「映画の神様、ありがとう」と叫んだときは、思わず微笑が漏れてしまいました。映像化が不可能と言わしめた作品を仕上げた監督の功績に、素直に拍手したい気持ちだったんです。

天を仰いで、お茶目に「Thank you Movie God!」
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でも、ふと疑問が頭をかすめました。視覚効果賞で獲得した「ライフ・オブ・パイ」で視覚効果を担当したチームの責任者デビッド・ウェステンホッファー氏の受賞演説で、なぜか映画「ジョーズ」のテーマソングに被せられてカットされたんですよね。ちょうど、「Sadly, Rhythm & Hues is suffering serious financial difficulties now. … I urge you all to remember …」と、最後は尻すぼみに終わったんです。

Rhythm & Hues(リズム・アンド・ヒューズ)とは、視覚効果を担当した会社の名前。実は破産申請に踏み切ってしまったんです・・・映画がアカデミー賞の栄誉に輝いた影で、製作チームは無給で働いた後にお払い箱とされていまいました。

はい、スピーチが長かったかと思うでしょ?ところが・・・助演女優賞を受賞したアン・ハサウェイは1分50秒で、「ライフ・オブ・パイ」の視覚効果チームは1分だったとか。

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アン・リー監督は確かに、受賞演説を「映画に携わった3000人と喜びを共有したい(I really need to share this with all 3,000. Everybody who worked with me on Life of Pi.)」との言葉で始めました。一方で結びはといいますと、「最後にエージェントと弁護士に御礼を申し上げなくては。とりわけこの映画において、あなた方の支援に深く感謝します。(Finally, my agent, Carin Sage and lawyer, Ira Schreck, and Joe Dapello, I have to do that. Especially for this movie, it’s great to have your support. 」。視覚効果チームには具体的に触れず・・・受賞スピーチで弁護士の名前が挙がるのも、非常に珍しい。

なぜか。

アカデミーが開催されていたドルビー・シアターの前では、視覚効果チームの不遇に怒りを表し同じく視覚効果を生業とする人々が抗議活動を展開していたんです。400―500名が集まったといいます。まだ提訴にいたってはいませんが、水面下で弁護士が映画化に踏み切るにあたり、並々ならぬ努力を払ったことは想像に難くありませんね。

フェイスブックをはじめ今回のアカデミー賞の演説妨害や視覚効果チームの処遇に、関係者(Visual Effect=Vfx)は、コンピューター・グラフィックのお馴染みの緑色で抗議を表しています。
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エコノミスト誌が指摘したように、映画業界は困難に直面し2007年から2011年におけるメディア大手傘下の5大配給会社(ディズニー、パラマウント、20世紀フォックス、ユニバーサル、ワーナー・ブラザーズ)の税引き前の利益は40%縮小したといいます。親会社の利益に占める映画部門も割合も足元の10%から5%へ狭めるそうです。こうした映画業界の逆風のあおりを受けたのが、映画で必須の視覚効果部隊。海外へ外注してコスト削減を目指していることも、背景にあります。グローバリゼーションの波が、これまで専門的な分野にまで押し寄せた証拠といえるでしょう。

ミシェル夫人はアカデミー作品賞の発表前、「映画というものは十分に突き詰め、一生懸命闘い、自分自身を信じる勇気をみつけられれば、どんな障害にも打ち勝つことができると教えてくれた(they reminded us that we can overcome any obstacle if we dig deep enough and fight hard enough and find the courage to believe in ourselves)」と演説してました。

ファーストレディから受賞を通知された「アルゴ(Argo)」のベン・アフレックも、6年間にわたりメジャー映画の主役に見放された時代を思い返してか、涙を浮かべながら「どんなに打ちのめされたって関係ないよ、それが人生なんだから。問題は起き上がらなきゃいけないことさ(it doesn’t matter how you get knocked down in life; that’s going happen. All that matters is you’ve got to get up)」と語り、観衆を感動させましたね。

昂揚した表情で、実に人間味たっぷりのスピーチでした。
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こうした動きは、映画界だけの特殊なものとはいえないでしょう。ミシェル夫人とベン・アフレックの言葉は胸に響きますが、もてる者と持たざる者との格差は、明らかに拡大しつつあります。

水色のぬいぐるみが・・・視覚効果の技で見事に虎に変身してたんです。
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撮影シーンと実際の映像、雲泥の差であることは確かです。
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【追記】

ある意味、アップル的な商法を採用しつつある映画界は現代の労働市場を映し出しているといえそうです。アメリカでは賃上げ見送り・減給・ボーナスなしが蔓延しつつあり、残業手当に恵まれず、一人が複数の仕事に追われるという「ニューノーマル」を迎えてますから。失われた20年で日本の労働市場が変貌を遂げた姿が、焼き直しされているようです。

こういう本が登場しているのも、実態への不満を色濃く表しているのではないでしょうか。
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マーケティング・広告部門の第1人者であるピーター・シャンクマン氏が著した、日本語でいう「ステキな会社が一番乗りになる」と題した本書。GEのジャック・ウェルチ元CEO、フォード社長およびクライスラーの会長兼CEOを務めたリー・アイアコッカ元会長などのような、「全体主義的なカウボーイCEO」がコスト・人員削減の大鉈を振るう時代は終わり、ナイスな幹部こそがコラボレーション時代で企業を繁栄に導くと指摘しています。団塊世代からは夢物語と断じられそうな一冊ですが、40代以下の年齢層には大いに共感されるのでないでしょうか。

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